探究心と人を大事にするくつした愛好家 (森一章さん)

このWEBサイト「くつしたと私。」を立ち上げる時に、いつかこの人にインタビューをしてみたいと思っていた人がいた。以前の記事で紹介した鈴木孝さんの大学の後輩でもある彼。とにかく、くつしたづくりでわからないことがあったら彼に聞いてみようと多くの若手が頼りにしている〝くつした愛好家〟なのである。

株式会社ナイガイ 企画開発部 技術課
森 一章さん


森さんは、国立大学で繊維学部を専攻、周りが合繊メーカーや紡績メーカーへ就職先を決める中、自分はエンドユーザーに近い「商品」に携わりたいと思い、株式会社ナイガイへ入社を決めた。
ニット製品の品質管理・生産管理を数年経験した後に、くつしたの企画に携わるようになったという。最初に教わったのは「見てよし、触ってよし、履いてよし」。
「くつしたづくりは、本当に模索の毎日です。くつしたはとても小さいものなのに人の手がかかる、そのくせできることやデザインの制約が多く、だからこその奥深さがある。靴と同じようにサイズがあるものなのに、試着しないで買うことが一般的です。でもね、つくるのに手間をかけさせ過ぎてはダメなんです。手の届く価格帯であることも良いくつしたの条件ですから。」

これまで森さんは、素材や編みそして販売価格にもこだわりを持ってベストなアイテムを考えてきた。その中でも携わってきた商品の一部を見せてもらった。
今では国内にあまり多くは存在していないという古い機械で編み立てたくつしたの一部。凹凸の柄の中にメッシュを取り入れるという高度な技術で作られたものだ。とても複雑な編み地となっているため、目が落ちてしまうなど編みを完璧に行うことが難しいそうだ。

最新の編み機であれば、そんなこともないのでは?と疑問を投げかけたところ、多くの新しい編み機は「生産性が高い」ものが多く、そもそも複雑な編み方を求めるには、メンテナンスをしながらも現役活躍をしている古いタイプのものの方ができることが多いそうだ。あえてそんなやり方にトライしていくのは、運転も乗り心地も快適な気軽に乗れる新しい車ではなく、故障を連発しても愛し続けたいクラシックカーでのドライブを好むようなものなのかもしれない。それって言い換えるとロマン、かな。そういうこだわりをわかってくださるお客様の為にも存在意義をわかりやすく伝えていきたい、と語る。
また、冒頭にも触れたように、森さんは多くの若手からくつしたづくりについて聞かれることがある。
「先日社内でくつしたの勉強会を開いてみました。まだ入社して間もない子たちに教えてみましたが、もし良い反響があれば継続的に行いたいですね。僕も先輩たちにたくさん教えてもらってきているので、やってもらったことって誰かにお返ししてあげたいなと思っています。」
くつしたづくりだけではなく、その知識・技術を継承していくことも同じくらい大事にしているのが話の端々に感じられる。

そんな森さんがおすすめする、(ちょっと変わった)くつしたの履き方をご紹介。夏など汗をかきやすい時期には、薄手のビジネスソックスを2枚重ねて履いているそう。一般的なビジネスマンはスーツにビジネスソックスを1足(1枚)で履いているが、重ねて履いてみるとベタつきが少なくとても心地良いそうだ。ビジネスソックスのドレッシーな見た目はそのままに履き心地は格段良くなるそうなので、ぜひ足の汗が気になるというビジネスマンはお試しあれ。

また、森さんのくつした愛は止まることを知らず、自社商品だけでなく、他社商品やインポートのくつしたを購入して、デザイン・価格・履き心地のリサーチを日々行っている。
「くつしたは、伸縮性を持たせた細い糸と、質感を左右する太い糸をコンビにして編み立てます。この2つの素材選びで、良いくつしたであるかどうかが決まると言っても過言ではありません。きちんとお金を払うことでお客様の目線になり、この価格でこの履き心地なのか、素材は何か、どんな編みなのかということを考えていたいんです。」
アップデートし続けるくつしたへの探究心。情熱が冷めることはなさそうだ。

株式会社ナイガイ 企画開発部 技術課
森 一章さん

素材から編み方まで熟知した、社内でも屈指のくつした〝超〟愛好家。
数年前までは週末に少年野球の監督・コーチを務め、時には海外遠征を行うなど積極的に地域の子供達の活躍を見守ってきた。今はその座を下へ継承し、プロ野球などのスポーツ観戦へとシフト。もちろん週末の過ごし方として靴下売り場を訪れることもしばしば。

※掲載内容は、すべて記事掲載当時の情報となります。

≪ 「くつしたと私。」トップへ